■■■第3章:彼らが古代より守り続けてきた奥義とは何か
■■秘教グループによる知識の保存
いつであれ仏陀のような師が誕生するときには、彼の媒体となって助けることが、秘教グループの第一の仕事になる。
これら秘教グループのもうひとつの仕事は、ひとたび得られた知識を保存することだ。たとえ仏陀が、何か究極的なものを成就したとしても、誰がそれを保存するだろう。何かを書物の中に保管するのは、保存ではない。なぜなら、知識は非常に生き生きとしたものだが、書物はまったく死んでいるからだ。書物に保管できるのは言葉だけで、知識ではない。知識を保存できるのは生きた人間だけなのだ。
なぜなら、書物はもう一度解釈されねばならないからだ。だが、解釈する人間はどこにいるだろう? それらはもう一度解読されねばならない。だが、誰がそれを解読するのか? もし、本当にそれらを解読できる人がいて、それらを正しく理解できるとしたら、その人は最初から書物なしでも、そのメッセージを授けることができただろう。だが、書物に頼っている者たちには、それを正しく解釈することなどできない。
リグヴェーダの古写本。
真理の言葉を散りばめた聖典は、
遠い時間を旅した末に、何を語ろうとしているのだろうか?
文書は確かに残っている。しかし、それは
真理が残ったことと同意ではない。
あなたは、もともと自分が、何らかのかたちで知っている内容以上のことを、本から読みとることはできない。あなたに読むことができるのは、自分自身だけだ。それ以外の何ものでもない。たとえあなたが、仏陀のダンマパダ(法句経)を読んでいるとしても、それは仏陀のダンマパダではない。あなたのダンマパダだ。いつの間にか、あなたは創作者になっている。つまり、あなたの深みが、そのまま仏陀の言葉の深みになってしまうのだ。あなたは、自分自身を超えられない。したがって、あなたは、自分自身を超えたものを、何も見ることができないのだ。
だから、微妙な知識、根源的な知識、究極の知識は、いつ得られようとも決して書物のなかに保存することはできない。誤解のしようもない普通の知識、ごく普通の学校で解釈を学べるような知識なら、書物に保存できる。言語さえ知っていたら、あなたはそれを知ることができる。だが、究極的な知識は、こうしたやり方では保存できない。それは、ただ生きた人間を通してのみ保存され得るものだ。だからこそ秘教グループが必要なのだ。グループでは、知識はひとりの生きた人間から、もうひとりへと直接伝達される。それは、ただの機械的な伝達ではなく、ひとつの技だ。
マンダラには“宇宙の真理”が
描かれているといわれている。しかし、
それを解読できない者には、ただの模様だ。
■■秘教的知識の保存はなぜ必要か
究極の知識を伝達したり保存したりすることは可能だ。事実、こうした秘教グループは、知識を伝達するべき特別な人をじっと待つ間、何世紀にもわたって知識を保存してきている。
たとえば、マハーヴィーラには5万人の僧侶たちがいたが、彼の存命中に、全員が〈覚醒〉できたわけではない。非常にたくさんの人々が、訓練の途上に取り残された。だが、マハーヴィーラは二度とこの世に現れることはない。それでも、訓練の途上にある人たちには、さらなる知識が提供されねばならない。
マハーヴィーラは、ジャイナ教祖師ヴァルダマーナのこと。
12年の苦行の後、42歳で大悟を得る。彼は仏陀と
同時代の人で、仏陀とは弟子を通じての交渉があった。
上の写真は、ジャイナ教のメッカ、パリタナの
ギナール山に建つ壮麗な寺院。
誰が、それを提供するのだ? マハーヴィーラはここにいないし、聖典類もあてにならない。なぜなら、それらは馬鹿げているからだ。誰かが、それを解釈しなければならないというのに、解釈は読む者の理解を超えることはできないのだから、その解釈は無意味だ。特定の意識状態にある人たちが、それ以後の訓練を正しく行なえるように、覚醒の鍵を保持しているグループが必ずある。さもなければ、こうした人々は途方に暮れてしまうか、不必要で、無益な奮闘をしなければならない。あるいは、彼らは新しい師を捜さねばならない。だが、師を代えるたびに、修行は新たに一から始めなければならない。なぜなら、古いシステムには、新しいやり方に使えるものは何ひとつないからだ。ひとつの道のやり方は、何ひとつ別の道では使えない。あらゆる道が、それぞれに独自の有機的統一をもっている。ムハンマドの道で意味をもつものは、マハーヴィーラの道では意味をもたない。仏陀の道で意味のあるものは、イエスの道では意味をもたない。
だから、もし誰かが仏教の道からイエスの道にやってきたとしたら、彼は新たに始めなければならない。過去生での努力さえ、すべて投げ捨てられてしまうのだ。それはよくない。まったくの浪費だ。
だから、師がそこにいないときには、こうした秘教グループが知識を保存する。保存がなされれば、この知識が師として機能し始める。だが、知識は生きた人間によってのみ保存可能なものだ。アショカ・サークルの9人は、それぞれが特殊な鍵を携えた奥義体得者(アデプト)だ。各人がおのおの全部の鍵をもっているのではなく、ひとりひとりが別々の鍵のスペシャリストとなる。グループが9人で構成されているのは、仏陀が9つの扉、9つの鍵、9種の知識について語ったからだ。各人は、それぞれただひとつの鍵に関してだけアデプトだ。彼はひとつの扉にだけ通じている。その扉から入りたい者は、彼の助けが受けられる。仏陀は9つの扉に通じることができたが、これら9人は9つの扉に通じることはできない。だが、ひとつの扉だけで十分といえよう。必要なのは、ひとつの扉のひとつの鍵だけ。何も9つの扉全部から入る必要はない。ひとつの扉で間に合う──。それであなたは、中に入れるだろう。だから、これら9人のアデプトはそれぞれひとつの鍵を持っている。めいめいがひとつの扉、ひとつの瞑想の道に精通している。必要があるたびに、9人のなかから適任者が手を貸すことになる。
いつであれ、新しい覚者、新しい光明を得た人がやってくるときには、そのグループが下地を準備する。彼らは、人々が彼に耳を傾け、彼を理解するよう準備する。もし、こうした下地が用意されなければ、あらゆる覚者が十字架にかけられてしまう。彼は磔刑にあってしまう。なぜなら、民衆が覚者を誤解し、拒絶するからだ。
エジプトの『死者の書』。
パピルスに記されて、ミイラとともに棺柩内に納められた呪文集。
原形は古王国時代のピラミッド・テキストにある。
冥界への案内書として、死後の安楽を
得るための注意が記してある。
別の方法で働きかけている秘教グループもある。ときとして人類は、かつて知っていたことを忘れてしまうことがある。『死者の書』(エジプトの書物)には、こう記されている。
「無知とは忘却にすぎない」
かつて知られていたことが、忘れ去られてしまう。ある意味では、この世の知識に新しいものは何もないともいえる。何かが忘れられたままになっているだけだ。だから、あなたが再びそれを知っても、まるでそれが新しい発見であるかのように思える。
■■覚者へ至る鍵は失われやすい
いくたびも、多くの鍵が失われた。なぜなら、それを保存する秘教グループが存在しなかったからだ。しかし、グループは存在しても、知識の伝授を受け得る人が、ひとりもいないこともある。そうなると、秘教グループは、保存する以外になす術がない。だが、それすら不可能になるときもあるのだ。保存は容易なことではない。たとえば、アショカ・サークルでは、9人のグループのひとりが死んでぬけた場合、彼の代わりを見つけるのは、常に大変なことだ。交代が、選挙のような形で行なわれるわけではないからだ。それは民主的ではない。知識の伝授は、民主主義には頼れない。できるのは無知だけだ。知識の世界は常に専制的だ。あなたは、選挙によってどんな人間でも委員会の長に決めることができる、と考えるだろうか。もし、あなたがそれを決定するとしたら、それは自殺行為だ。知識は常に専制的なものだ。それは絶対、下からは来ない。いつも上から来る。
この違いをはっきり見てみるがいい。下からやってくるものは何であれ無知からやってこざるを得ない。たとえば、政治は無知の最たるものだ。それは下からやってくる。最低の者が最高の者を選ぶ。ではこの場合、最高の者とは何を意味しているのだろう? 最低の者が最高の者を選ぶ、それでは、最高の者は必ず最低の者よりなお低い者になるはずだ。民主主義では、指導者というのは追従者の追従者に他ならない。知識は、こんなものには頼れない。知識はいつも上から授けられる。それゆえ、秘教グループは専制的なのだ。
秘教グループは鍵を保持している。知識を保持している。誰かが特定の知識のシステム、特定の奥義を受け取る能力を持つやいなや、その鍵は引き渡される。誰かの準備が整うまで、グループは待つ。だから、何世紀にもわたって待たねばならないこともあるのだ。グループのひとりが死んだ場合、補充は非常にむずかしい。補充は選択して決められるものではない。アショカ・サークルの場合、グループの残った8人のメンバーは、能力のある人物を見つけ出さなければならない。しかし、能力のある人物ですら、グループに参入する前に訓練を受けなければならない。ときには、グループはひとりの人物に何生にもわたって働きかける、そうしてはじめて、その人はメンバーに取って代わることができるようになる。
だが、もし誰も見つからなかったら、鍵は失われ、この秘教グループ自身の力では二度と見つけられなくなる。それは、仏陀のような人が誕生するときにしか再発見はされ得ない。秘教グループはただ保存し、伝達することができるだけだ。それは発見することはできない。発見は彼らの能力の外にある。ゆえに、多くの鍵が失われていく。
3章
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