チロがいなくなっていた。遁走したのだ。これでチロの出産確定、処分するしかない、それがオレに出来るか?・・・朝から自問自答して頭を悩ましている。チロは昨夜から鳴き放しで眠るどころではなかった。今朝鏡を見たら眼が充血していた。また別の猫が自宅から逃げ出そうとしている。今日は大工仕事になりそうだ。猫が逃げ出しそうな穴を防がねばならぬ。
仕事を干されてから数日が経つ。その間、元請けからは何の連絡もない。「社長、このままでは食べていけないんですけど」と云ったときの社長の顔、視線を逸らしてそのまま黙って帰って行ってしまったっけ・・・監督の言葉が蘇る「仕事さえキチンとしてもらえば、オレはそれなりに面倒みるんだよ」・・・その仕事が途絶えた今、面倒みるもなにもない。「あんたにホントに出来るのか?」・・・建築が絶望的となり、急遽畑違いの金属の引継ぎをしなくならなくなった時点で監督に云われた言葉だ。「とにかくやらしてください」と・・・何度も失敗を繰り返し・・・やっと監督に認められて「これで安心して仕事を任せられるな」と褒められて、嬉しくなって、より完成度の高い仕事を目指して・・・やってきたつもりだった。「そんな仕事さっさと辞めちゃえば」・・・何人もの人がそう云ってくれる。「生活出来ないんだったら生活保護受けろ」と云われ、役所にも相談した。家賃3万以上の家には住めない、少しでも働けるうちは難しい云々・・・途方に暮れたままの自分がいる。人間、やろうと思えば何とかなるんだ・・・あんたよりもっと過酷な環境で頑張っている人もいるんだ・・・考えが甘いんだよ・・・様々な人々の忠告が頭の中で渦を巻く。
それに縋ってはいけないのだけれど、何より有り難い心づくしの支援・・・つい数ヶ月前まで私は持病の再発で歩くことも出来なかった・・・今は普通に歩くことができる・・・それだけでも感謝すべきなのに・・・何処かにまだ残ってたらしい自分のプライドがそれをぶち壊す。これだけは云ってほしくない部分に触れられると、どうしても反応してしまう「何故?どうして?そんなことで癇癪起こすの?」信じられないと・・・責められても自分にも分からない。これだけは云って欲しくない、その云って欲しくないところが事前に認知できないのだ。そしてそれ以後は人の忠告すら刃と化して心に突き刺さるようになる。善意ですら激痛となってしまうんだ。
チロよ、何処へ行った・・・イチコが強烈な鳴き声を発している・・・ラブラブも・・・メス猫が春に感応し始めたのだ。春は命の本能を目覚めさせ、ムクムクと幾多の命を大地より呼び覚ます。その群れに押し潰されるようにしながら、私も地べたを這いずり回っている。